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東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)125号 判決

原告 旭ダイヤモンド工業株式会社

被告 東京都地方労働委員会

参加人 総評全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部 外一名

主文

1  参加人両名を申立人、原告を被申立人とする都労委昭和四九年不第一一九号事件について、被告が昭和五〇年九月一六日付でした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とし、参加によつて生じた費用は参加人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主文第1項と同旨

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告及び参加人両名

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  参加人両名は、原告会社を被申立人として、被告に対し団体交渉拒否を理由に不当労働行為救済の申立をしたところ、被告は、右申立にかかる都労委昭和四九年不第一一九号事件について、昭和五〇年九月一六日付で、「被申立人旭ダイヤモンド工業株式会社は、申立人旭ダイヤモンド三重工場労働組合と申立人全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部とが同一の要求事項について共同して団体交渉を申入れた場合には、申立人両組合の共同の申入れであることを理由としてこれを拒否してはならない。」旨の命令(以下「本件救済命令」という。)を発し、右命令書の写しは、同年一〇月二日に原告会社に交付された。

2  しかし、本件救済命令は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因事実に対する被告及び参加人両名の認否

請求原因第1項の事実は、認める。

三  本件救済命令の適法性についての被告及び参加人両名の主張

(被告)

1 当事者

(一) (1) 参加人旭ダイヤモンド三重工場労働組合(以下「三重労組」という。)は、原告会社三重工場の従業員で組織する労働組合であり、組合員数は二七七名である。

(2) 参加人総評全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部(以下「支部」という。)は、昭和三八年原告会社玉川工場、八王子分工場の従業員で結成した旭ダイヤモンド労働組合が昭和四九年一月総評全国金属労働組合(以下「全金」という。)に加盟したことに伴ない名称を変更した労働組合であり、組合員数は二〇三名である。

(二) 原告会社は、肩書地に本社を、三重県上野市に三重工場、神奈川県川崎市に玉川工場を置き、全国八か所に営業所を有し、ダイヤモンド工具の製造販売を業とする株式会社であり、従業員約八〇〇名を雇用している。

2 昭和四九年年末一時金に関する共同交渉の拒否

三重労組と支部(以下「参加人ら組合」という。)は、昭和四九年一一月五日、原告会社に対して同一内容の年末一時金の要求を提出し、参加人ら組合の各交渉担当者と原告会社の交渉担当者とが一堂に会して共同して団体交渉(以下、右形式による団体交渉を指して「共同交渉」という。)を三重工場において行いたい旨申し入れた(以下「本件共同交渉申し入れ」という。)。これに対して、原告会社は、同月九日、従来から参加人ら組合からの要求に対しては同時回答をしており、したがつて共同交渉の必要を認めないことなどを挙げて、これを拒否した。その後、同月二一、二二日の両日、参加人ら組合と原告会社とは共同交渉の取扱いについて協議したが、物別れに終わり、同月二五日、原告会社は、参加人ら組合に対して、同月二七日に参加人ら組合と各別に団体交渉を行う(以下、右形式による団体交渉を指して「個別交渉」という。)旨通知した。

3 原告会社の不当労働行為

参加人ら組合が、いずれも独立した労働組合であり、それぞれ団体交渉権を有することはいうまでもないが、団体交渉権を保障されているからといつて、労働組合が一般的に自己の選択する形態による団体交渉をつねに使用者に強制することができるものと解することはできない。しかし、本件においては、次に述べるような諸事情が存在するのであるから、原告会社が本件共同交渉申し入れを拒否したことは、正当な理由がないものというべきである。

(一) 参加人ら組合は、ともに原告会社の雇用する従業員で構成されている。

(二) 参加人ら組合の要求事項は、同一である。

(三) 参加人ら組合は、共同交渉を望んでいる。

(四) 原告会社と参加人ら組合との間において昭和四六年までには何回か共同交渉が行われた実績が認められる。

(五) 原告会社と参加人ら組合との共同交渉が実施された場合にも、交渉がそのために長期化したことはないし、また、交渉の場所の選定や交渉の場所への出張などにより業務その他につき著しい不都合が生ずるとも認めがたい。

右のような諸事情が認められる以上、共同交渉を行うことは、個別交渉の場合に比し、より事案の統一的解決が期待しうるのであり、他方、原告会社にとつても、交渉時間の節約、意思疎通の改善等の利益こそあれ、格別の不都合があるとは予想されない。したがつて、原告会社が本件共同交渉申し入れを拒否したことには正当な理由がないというべきであつて、原告会社の右拒否は、不当労働行為にあたる。

(参加人両名)

被告の右主張のうち、1(当事者)(一)(2)の部分を除き、その余はすべてこれを援用する。

参加人支部の成立経緯は、次に述べるとおりである。

原告会社には、昭和三五年当時、世田谷工場及び雪ケ谷工場が存在したところ、同年五月に旭ダイヤモンド世田谷工場労働組合(以下「世田谷労組」という。)が、同年六月に旭ダイヤモンド雪ケ谷工場労働組合(以下「雪ケ谷労組」という。)がそれぞれ結成され、昭和三八年六月には、右両組合は、組織統合して旭ダイヤモンド労働組合(以下「旭ダ労組」という。)を結成した。その後、昭和四〇年八月、原告会社に玉川工場が新設されて、世田谷、雪ケ谷両工場の施設、従業員がこれに移転した。昭和四八年一二月、旭ダ労組は、全金に加盟して、全金の組織の一部としての参加人支部となるに至つた。

四  被告及び参加人両名の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1(当事者)の(一)(1)については、三重労組の組合員数は知らないが、その余の事実は認める。

同1の(一)(2)については、支部の組合員数は知らないが、その余の事実については、被告の主張を否認し、参加人両名の主張は認める。

同1の(二)については、原告営業所数並びに従業員数を否認し、その余の事実は認める。営業所数は一〇ケ所であり、従業員数は昭和五〇年九月末現在で約七四〇人である。

2  同2(昭和四九年年末一時金に関する共同交渉の拒否)については、参加人ら組合の要求内容が同一であることは否認し、その余の事実は認める。

3  同3(原告会社の不当労働行為)については、本件共同交渉申し入れに対する原告会社の拒否が不当労働行為に該当するという被告・参加人両名の主張は、これを争う。

(一) 参加人ら組合が、ともに原告会社の雇用する従業員で構成されているとの点は認めるが、右事実は、原告会社が共同交渉応諾義務を負う根拠にはなり得ない。

(二) 参加人ら組合の要求事項が同一であるとの点は否認する。参加人ら組合の要求内容の間には次のような差異がある。

(1) 三重労組は、昭和四九年一一月二〇日現在の在籍者について、たとえ右の日以降に退職していた者であつても、年末一時金の支給を要求している。

(2) 一時金支給率は両組合とも同一であるが、支部は基本給のみを基準としている。

(3) 支部は、三重労組が要求していない夏季一時金闘争におけるスト控除分賃金の支給をも要求として掲げている。

(三) 参加人ら組合が共同交渉を望んでいるとの点は否認する。参加人ら組合は必ずしも共同交渉を望んでいるわけではない。また、仮に望んでいたとしても、それは、原告会社が共同交渉応諾義務を負うことの根拠とはならない。

(四) 昭和四六年までに何回か共同交渉が行われたとの点は認める。しかし、その後の事情の変化により、右事実をもつてしては、原告会社の共同交渉応諾義務の根拠とすることはできない。

(五) 原告会社が共同交渉に応じた場合に著しい不都合が生ずるものとは認められないとの点は否認する。共同交渉に応じた場合には、原告会社には、交渉の紛糾、長期化及び業務上の支障等著しい不利益が生じる。したがつて、本件共同交渉申し入れに対する原告会社の拒否には正当の理由がないとの被告・参加人両名の主張は、失当である。

五  原告の反論

原告会社は、次の理由により、本件共同交渉申し入れを拒否したものであつて、右拒否には、正当な理由があるというべきである。これを看過して、原告会社の右行為を不当労働行為と認定した本件救済命令は、事実を誤認し、事実の認定を遺脱し、労働組合法七条二号の解釈を誤まつた違法な行政処分であり、取消を免れない。

1  原告会社と参加人ら組合との間においては、昭和四六年以前においても個別交渉と共同交渉が順次繰返されていたものであるが、昭和四七年から昭和四九年一一月までは、三重労組及び旭ダ労組(昭和四八年一二月以降は支部)から原告会社に対し共同交渉の申し入れが行われたことはなく、原告会社との団体交渉は各工場において個別に行われていたものであつて、参加人ら組合と原告会社との間で、団体交渉を共同交渉の形態で行うという労使慣行はなく、むしろ個別交渉が定着した労使慣行となつていたものである。

2  昭和四六年までの間に何回か共同交渉が行われた事実はあるが、その後次のような事情の変化があり、共同交渉を行う基盤が失われている。

(一) まず、組合側については、次のような変化がある。

(1) 昭和四六年までの共同交渉の当事者は、旭ダ労組と三重労組であり、ともに企業内組合であつたところ、旭ダ労組は、昭和四八年一二月に全金に加盟したことにより全国組織の一部となり、昭和四六年当時とはその性格を異にするに至つている。

(2) その結果、三重労組は工場単位の企業内組合として独自の活動を行うことができるのに対し、支部は全金の組織の一部として上部組織の方針に拘束されるほか、各組合は、運動方針を異にし、組合活動、闘争の進め方に基本的な対立があり、共同交渉を行つた場合には、たとえ同一事項の交渉でも、その足並みは揃い難い。

(二) 他方、原告会社側についても、昭和四六年までの共同交渉においては、本社から専務、副社長が団体交渉に出席していたが、原告会社はそのころから急速に企業規模が拡大し、これに伴つて、玉川、三重の両工場の管理部門の組織が整備されるとともに、両工場長に対して労働条件決定に関する大幅な権限委譲が行われ、両工場における労働条件は、各工場長の判断により、その権限に基づいて決定されるようになつてきており、現在の本社においては、社長以下の幹部は社業に忙殺されて団体交渉出席の時間的余裕はなく、本社組織にも労務、人事等の名称を有する部局は存在していないので、共同交渉を受け容れる原告会社の態勢はすでに失われるに至つている。

3  共同交渉による解決を困難とする次のような事情がある。

(一) 両工場の間には、同一企業内とはいえ、始業・終業時刻は玉川工場の方がいずれも一五分早く、夏季特別休憩は玉川工場のみで行われており、基本給については玉川工場の方が三重工場に比べ約六パーセント高く、住宅手当、通勤手当、食事補助金についても両工場で支給額が異なるほか、三重工場においては、包括的労働協約が締結されており月間二時間以内での就業時間内組合活動については賃金補償がされている等、地域差並びに工場ごとの自主性に基づき主要な労働条件について差があるものであつて、共同交渉による一律的な解決になじまない。

(二) 参加人ら組合はそれぞれ運動方針と争議行為に対する考え方を異にするため両組合の団体交渉の運営には当然差が生ずることとなるが、この違いは両組合同席の場では更に顕著となり、また、複数の組合が同席した場合には互いに他の組合に対する思惑から卒直な意見が出にくく交渉の収拾が困難となる。

(三) 団体交渉の収拾に際しては労使のトツプクラスによる腹を割つた話し合いによる折衝が有益であるが、三重労組と玉川工場長、支部と三重工場長との間ではこのような折衝を行うことができる信頼関係がないから、共同交渉ではその比重が低下し、交渉の妥結が困難となる。

(四) 各組合とも、団体交渉担当者は妥結権を組合から委譲されないまま団体交渉に臨んでいるものであつて、交渉事項について原告会社と妥結するためには各組合とも全体集会による承認を必要とするところから、仮に共同交渉をおこなつたとしても、参加人ら組合が原告会社と同時に妥結に至る保障はない。

4  原告会社は、共同交渉に応じる場合には、著しい不利益を被る。

(一) 昭和四六年当時と比べると、団体交渉の対象となる事項は格段に拡大しているうえ、要求提出から妥結までの期間も年々増加傾向にあり(春闘を例にとれば、両工場とも約二〇回の交渉を行い約二か月半を要している。)、更に争議行為の回数も大幅に増加している。したがって、仮に共同交渉による団体交渉を行った場合には、前述のように参加人ら組合の足並みが揃わないことから、交渉は更に長期化して、そのために原告会社が不利益を被ることは必至である。

(二) 組合との団体交渉に際しては、各工場とも工場長以下主要な部課長が臨席する必要があり、これが慣行となつているところ、玉川工場と三重工場の間の移動には約六時間を要し、更に参加人ら組合との共同交渉に応じるためには少なくとも数日間の現地滞在が必要であつて、工場長や部課長職はいずれも専門知識を要する職務であり代替措置をとり得ないことから、共同交渉に応じた場合には、一方の工場において幹部不在により深刻な業務上の支障が生じ、交渉が長期に及んだ場合には、右支障はきわめて重大なものとなる。

(三) 従来の団体交渉においては、組合側の団体交渉出席者について、交渉に要した時間及びその前後における組合側打ち合わせ時間を勤務したものとして取り扱い、右の時間に対応する賃金を支払つていた。このような従前の取扱いを踏襲すれば、共同交渉に応じた場合には、一方の工場の組合側団体交渉出席者については、両工場間の往復に要する時間及び長期にわたる他工場での滞在期間のすべてについて賃金を支払わなければならなくなるが、右のような取扱いをすることは、原告会社の受忍限度をこえたものであつてとうていできない。

六  原告の反論に対する被告・参加人両名の認否及び再反論

1  原告の反論1(共同交渉の慣行不存在)について

(被告・参加人両名)

昭和四七年一月から昭和四九年一一月までの間、参加人ら組合から原告会社に対し共同交渉の申し入れが行われなかつたことは認めるが、個別交渉が定着した労使慣行となつていたとの点は否認する。右の間共同交渉の申し入れが行われなかつたのは、参加人ら組合の間で共同交渉実施についての合意に至らなかつたために、原告会社に対して共同交渉の申し入れをしなかつたというにすぎないのであつて、これをもつて個別交渉が確定した労使慣行となつたなどとはとうていいうことはできない。

(参加人両名)

参加人ら組合は、過去何度となく原告会社と共同交渉を行つた実績があるのであり、「参加人ら組合がその合意のうえで共同交渉を申し入れたときには会社が応じる」というのが定着した労使慣行であつた。昭和四七年一月から昭和四九年一一月までの間、参加人ら組合から共同交渉申し入れをしなかつたとはいえ、同年一一月五日に参加人ら組合から原告会社に対し共同交渉を申し入れた後は、いずれも原告会社の拒否によつて実現には至らなかつたものの、参加人ら組合から原告会社に共同交渉を何度か申し入れている。

2  原告の反論2(共同交渉の基盤喪失)について

(一) (1) 原告の反論2(一)(1)について

(被告・参加人両名)

原告主張事実は認める。しかしながら、旭ダ労組が全金加盟により支部となつたことをもつて、共同交渉拒否の正当な理由とすることはできない。

(2) 同2(一)(2)について

(被告)

原告会社が、支部と三重労組との間での、争議行為に対する姿勢、争議行為の態様、規模、回数等の差異をもつて、共同交渉はいたずらに交渉を紛糾させるとして、本件共同交渉申し入れを拒否した真意は、要するに、全金傘下の支部の運動ないし戦術に三重労組がひき込まれることを嫌つて、共同交渉を拒否したというもののようである。そうであるとすれば、原告会社の右行為は、両組合の内部問題について干渉する意図のもとで共同交渉を拒否したものであつて、共同交渉拒否の正当理由たり得ないことはもちろん、それ自体が組合間の勢力分断を意図した支配介入ともなるものである。

(参加人両名)

三重労組が企業内組合であり、支部が全金の組織の一部を構成することは認めるが、その余は争う。支部は、上部の方針にすべて拘束されるわけではない。

参加人ら組合は、組織事情が異なるなかで、昭和四九年年末一時金要求及び昭和五〇年春闘要求の各交渉を、被告委員会のあつせんを受けながらではあるが、同時に、また、ほぼ同一内容で、解決してきた実績を持つている。したがつて、この「組織事情の違い云々」が本件共同交渉申し入れ拒否の理由たり得ないことは明白である。

そもそも、企業内組合であれ、産業別組合であれ、別の組合との間で歩調を合わせるか否かは組合側の自主的な判断によるものであつて、原告会社が共同交渉を拒否する理由とはなり得ない。

なお、全金は、他労組との共闘を強めることをその基本方針のひとつにしているのであり、足並みをあわせる方向での指導こそすれ、足並みを乱させるような介入をするはずがないのであつて、現にそのような介入をした例もない。

(二) 同2(二)について

(参加人両名)

原告会社の売り上げ高や従業員数について一定の拡大がされてきたことは認めるが、それまでの団体交渉に関する労使慣行や実績を変更する必要が生じるほど機構改革や工場長への権限委譲が行われたとの主張は否認する。

むしろ一般的には企業の規模拡大にともなつて統一的決定の必要性が高まるのが通例であり、原告会社においても両工場長の裁量範囲ないし決定権限は、人員採用の権限の縮小にみられるように(昭和五〇年ころから正規採用については一切本社の承認が必要となつた。)、原告の主張とは逆に、かえつて縮小している。更に、現実の交渉にあたつても、両工場長は、個々の交渉事項の決定について、いちいち本社に問い合わせてその指示をあおいでいるものであつて、交渉担当者としての適格性に多大の疑念を感じさせる。

3  原告の反論3(共同交渉による解決の困難性)について

原告の反論3(一)について

(被告)

原告主張の両工場における労働条件の差異については知らない。しかし、本件における年末一時金又は賃金要求の主要眼目は、いわゆる支給率をいくらにするかにあるのであつて、仮に原告主張のような賃金水準等の差が両工場の間に存在したとしても、そのことは共同交渉を行うについての支障とはならない。

(参加人両名)

原告主張の各差異の存在については認めるが、その余は争う。

たしかに、労働条件の一部に差異があることは事実であるが、賃金体系(昭和四一年に両組合連名の協定書が原告会社との間でとりかわされており、賃金体系は両工場とも全く同じである。)、家族手当、皆勤手当、退職金規定、一日当たりの労働時間、休日の日数、年次有給休暇の日数、時間外手当の割増率等、主要な労働条件については両工場とも同一であるほか、夏季、年末の各一時金についても支給率その他ほとんど一致している。また、賃金額、始業・終業の時刻、住宅手当等、若干の差異の認められるものについても、地域的特性があることを配慮し若干の差異を設けることを両組合と原告の統一した意思によつて定めたものが多いのであつて、いずれにしても、一律的解決になじまないとの原告の主張はあたらない。とりわけ、本件年末一時金をめぐつての共同交渉の申し入れについては、一律的解決をはかることに何らの支障もない。

4  原告の反論4(原告の著しい不利益)について

(一) 原告の反論4(一)について

(被告・参加人両名)

共同交渉を行つた場合には交渉が長期化するとの原告の主張は否認する。原告のいう交渉の紛糾、長期化のおそれ等は、交渉事項、労使の対応状況いかんにかかるものであつて、個別交渉と共同交渉との区別によつて、右の事態に差異が生じるものではない。

(参加人両名)

同一企業内における複数の事業所ないし労働組合の相互の関係では、両者の間に同一の結論を同時期に成立させることが要請されることから、参加人ら組合の場合、一方の要求内容、交渉回数、妥結内容は他方に大きく影響することになる。したがつて、共同交渉は、むしろ、参加人ら組合の早期における同時妥結に資するものといわねばならず、実際、過去においても、共同交渉の方式をとつたために交渉が長期化したという事例はなく、かえつて、個別交渉の場合に、参加人ら組合のうち片方が先に原告会社と妥結したことから、原告会社がこれを理由として他方の組合とのそれ以上の交渉に応じようとしなかつたために交渉がいたずらに長期化した例がある。

(二) 同4(二)及び4(三)について

(被告・参加人両名)

両工場間の移動に六時間を要することは認めるが、工場幹部不在による業務上の支障の発生については知らない。

従前の団体交渉において、組合側団体交渉出席者に対して、原告主張のような賃金上の取扱いをしていたことについては、被告は知らないが、参加人両名は、これを認める。しかし、右取扱いが不都合であり、共同交渉応諾についての障害になるとの主張は、これを争う。

両工場が遠隔地にあることからすれば、共同交渉が行われた場合には、何程かの業務への影響がないとはいえないにしても、本件の場合、それが著しい支障にわたるものとはいえず、労使慣行としては一般的にみて常識的な範囲に属するものであり、この程度の支障については、我国では使用者が団体交渉に応じるのが通例であつて、原告会社としてはこれを受忍すべきものである。本件でも、昭和四六年以前には、原告会社は共同交渉に応じているのであつて、その際には原告は右「幹部不在による業務上の支障」及び「組合側出席者への賃金補償」云々を問題として難色を示してはいない。

(参加人両名)

原告会社における団体交渉の場合、主たる交渉担当者は、工場長と人事労務業務を担当する総務部長ないし総務課長であつて、それ以外の部門の部長や課長は従たる立場にあるものであり、組合との交渉にあたつてその出席が必要不可欠なものではない。従前共同交渉が行われていた場合に、他工場に出張して交渉に応じるときには工場長、総務部長、総務課長等、二ないし三名でまにあわせてきたのが通例であり、個別交渉の場合でも他部門の部課長については三ないし四名が欠けた状態でも交渉を行うことがあるのであるから、幹部の不在によつて業務に支障が生ずるというのなら、総務以外の他部門の部課長の団体交渉への出席人数を減らせばすむ。

また、仮に、原告の主張するように、部課長の半数程度の出席が必要であるとしても、各部課長の下にはそれぞれ業務に習熟した係長及び作業員がいるうえ、電話連絡等の方法により出張中の部課長の指示をうけることが可能なのであるから、突発的な重大事故の発生しないかぎり、工場における業務処理に支障が生ずるとは考えられない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当事者

1  原告会社が、肩書地に本社を、三重県上野市に三重工場、神奈川県川崎市に玉川工場を置き、ダイヤモンド工具の製造販売を業とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、証人藤井幸康及び同百北祥一の各証言によれば、昭和五二年現在で、三重工場における従業員は約三〇〇名、玉川工場における従業員は約二四〇名であることが認められる。

2  参加人三重労組が原告会社三重工場の従業員で組織する労働組合であることは、当事者間に争いがない。

3  参加人支部の成立経緯については、前掲藤井証言及び証人高橋勝の証言によれば次のとおりである。原告会社には、昭和三五年当時、世田谷工場及び雪ケ谷工場が存在したところ、同年五月に世田谷工場の従業員により世田谷労組が、同年六月に雪ケ谷工場の従業員により雪ケ谷労組が、それぞれ結成された。昭和三八年六月には、右両組合が組織統合して旭ダ労組を結成し、旭ダ労組は、中央執行委員会の下に、世田谷、雪ケ谷の両支部を置いていたが、昭和三九年初めには支部制を廃止した。その後、原告会社では、昭和四〇年八月に玉川工場が新設されて、世田谷、雪ケ谷両工場の施設、従業員が玉川工場に移転したが、旭ダ労組はひきつづき存在し、昭和四八年一二月に同労組は全金に加盟して全金の一部としての参加人支部となるに至つている。

二  本件救済命令の成立

参加人両名が、昭和四九年一二月一〇日被告に対し、本件共同交渉申し入れを原告会社が正当な理由なく拒否したことは不当労働行為に該当するとして、原告会社に参加人両名の申し入れた共同交渉を拒否してはならないことを命ずる救済の申立をしたこと、及び右申立にかかる都労委昭和四九年不第一一九号事件について、被告が、原告会社は正当な理由なく本件共同交渉の申し入れを拒否したものであり右は不当労働行為にあたるとして昭和五〇年九月一六日付で「被申立人旭ダイヤモンド株式会社は、申立人旭ダイヤモンド三重工場労働組合と申立人全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部とが同一の要求事項について共同して団体交渉を申し入れた場合には、申立人両組合の共同の申入れであることを理由としてこれを拒否してはならない。」旨の本件救済命令を発し、右命令書の写しが同年一〇月二日に原告会社に交付されたことは、当事者間に争いがない。

三  本件共同交渉申し入れ前における団体交渉の経過等

証人藤井幸康、同吉中恒三、同百北祥一、同奥村嘉郎、同高橋勝、同今北弘の各証言、成立につき当事者間に争いのない乙第三号証の二九、前掲高橋証言及び弁論の全趣旨により成立を認める甲第八号証の一、弁論の全趣旨により成立を認める甲第八号証の二、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1  昭和四六年年末一時金要求までの交渉形態

(一)  昭和三八年には、春闘において世田谷労組と雪ケ谷労組が原告会社との間に共同交渉を行つたほか、夏季若しくは年末のいずれかの一時金要求について旭ダ労組と三重労組が、三重工場において、原告会社と共同交渉を行つている。

昭和三九年から昭和四四年までの間は、夏季及び年末の各一時金の支給率、金額等を含めた要求事項を一括して春闘における交渉で決定する方式がとられていたところ、昭和三九年、同四〇年、同四一年、同四三年の各春闘において、旭ダ労組と三重労組は、原告会社との間で共同交渉を行つている。この間、昭和四二年及び同四四年の春闘においては、個別交渉が行われているが、このうち昭和四二年においては、原告会社が参加人ら組合に対し共同交渉の方式によることを強く要請したにもかかわらず、各組合ともこれを拒否し、原告会社がなおも共同交渉に固執したため交渉が長びいて、妥結時期が遅くなつている。

昭和四五年以降では、同年の春闘及び夏季一時金については共同交渉、同年年末一時金及び昭和四六年春闘については個別交渉、同年夏季及び年末の各一時金については共同交渉で、それぞれ原告会社との間で交渉を行つている。

(二)  共同交渉は、昭和三八年一時金交渉及び同四六年一時金交渉の際には三重工場で、同三九年春闘交渉の際には原告会社本社会議室で行われたことがあるものの、おおむね玉川工場において行われており、その場合には、玉川工場で共同交渉を二、三日行うと三重工場の労使双方の共同交渉出席者はいつたん三重工場に戻り、一週間程度経過したのち再び三重から玉川工場に赴いて、そこでまた共同交渉を二、三日行うという交渉方式がとられていた。

(三)  共同交渉には、原告会社側の団体交渉担当者として、本社から副社長及び専務取締役がたびたび出席しているほか、各工場からは共同交渉が自工場で行われる場合には工場長をはじめ課長以上の管理職のほぼ全員が、他工場で行われる場合には工場長及び総務担当の管理職一名が他工場に赴いて、それぞれ交渉に出席している。

(四)  組合側団体交渉担当者が他工場における共同交渉に出席する場合には、移動に要する運賃及び交渉中の宿泊滞在費についてはそれぞれの組合が負担していたものであるが、原告会社は、右の移動及び交渉に要した時間について、これを勤務したものとして取り扱い、その時間に対応する賃金を支払つている。

(五)  昭和三八年から同四六年までの間、共同交渉とともに個別交渉による団体交渉が参加人ら組合と原告会社との間で行われていたのは、両組合の間に、要求内容、闘争方法等について意見の相違をきたすことがあつて、共同交渉により団体交渉を行うことについての合意がすべての交渉については両組合間で成立しなかつたためであり、その場合には、個別交渉によつてそれぞれ原告会社と交渉を行つていた。なお、右の間、参加人ら組合間に共同交渉を行うことについての合意が成立して原告会社に共同交渉を申し入れた場合には、原告会社はすべて右申し入れに応じており、両組合から共同交渉が申し入れられたにもかかわらず原告会社がこれを拒否したという例はない。

2  昭和四七年一月以降本件共同交渉申し入れ前までの交渉等

(一)  昭和四七年一月以降同四九年一〇月までの間は、毎交渉期ごとに、参加人ら組合間で、共同交渉申し入れについての合意を成立させるための折衝が重ねられていたにもかかわらず、要求内容、闘争方法なかんずく争議行為の規模等について両組合の意見が一致しなかつたことから、共同交渉実施についての合意が成立せず、原告会社に対して共同交渉の申入れは、一度も行われていない。また、原告会社の側からも、参加人ら組合に対して共同交渉を申し入れたことはなく、結局、右の間は、参加人ら組合と原告会社との交渉は、すべて個別交渉によつて行われている。

(二)  なお、この間旭ダ労組は昭和四八年一二月に全金に加盟して参加人支部となつたのであるが、全金加盟後初めての原告会社との交渉である昭和四九年春闘においては、支部はそれまでの例にない長期にわたつての争議行為を行つており、支部と原告会社との間の交渉は長期にわたつて紛糾している。

3  参加人ら組合は、いずれも、原告会社との団体交渉にあたつて、団体交渉担当者に対して妥結権を委譲しないまま交渉に臨ませている。このことは、共同交渉の場合も個別交渉の場合も同じであつて、このため、各組合とも、原告会社との団体交渉の席上で事実上の合意に達した事項についてそれぞれの組合の全体集会にかけ、その承認を得たうえで原告会社と交渉を妥結している。このため、旭ダ労組では、昭和四七年年末一時金要求交渉における団体交渉の席上での合意事項が、組合の全体集会で否決されるという例があつた。

4  両工場の間においては、始業・終業時刻は玉川工場の方がいずれも一五分早く、夏季特別休憩は玉川工場のみで行われており、基本給については玉川工場の方が三重工場に比べ約六パーセント高く、住宅手当、通勤手当、食事補助金についても両工場で支給率が異なるほか、三重工場においては包括的労働協約が締結されており月間二時間以内での就業時間内組合活動については賃金補償が行われている等の差異があるが、他方、一日あたりの労働時間、年間労働日数、停年、退職金の算定方法、年次有給休暇の日数、家族手当、皆勤手当については、両工場とも同一である。

5  昭和四六年までは、参加人ら組合と原告会社との団体交渉に、共同交渉、個別交渉の別を問わず、本社から副社長、専務取締役がたびたび出席していたのに対し、昭和四七年以降は、いずれの組合との団体交渉においても、会社側出席者は、工場長以下の各工場における管理職であつて、本社からの出席者はいない。なお、玉川工場においては、会社側の団体交渉担当者の対応が、昭和四六年以前に比べて円滑を欠き、昭和四八年春闘交渉においては、妥結について本社の了解を得られなかつたことから労使の交渉が紛糾している。

四  本件共同交渉申し入れと原告会社の拒否

当事者間に争いのない事実(第二(当事者の主張)三における被告の主張2記載の事実のうち、両組合の要求事項が同一であることを除いた事実)に、前掲(三の冒頭)各証言及びいずれも成立につき当事者間に争いのない乙第三号証の一ないし一三並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  昭和四九年一一月五日、参加人ら組合は、それぞれ原告会社に対して、同年の年末一時金についての交渉を、同月一一日午後一時より三重工場において両組合の各交渉担当者と原告会社の交渉担当者とが一堂に会する共同交渉の方式によつて行いたい旨の本件共同交渉申し入れをした。

なお、右申し入れに際して、参加人ら組合が原告会社に示した年末一時金についての要求内容は、両組合とも、昭和四九年年末一時金として、勤続六か月以上の者に対しては四・五か月分、同五か月以上六か月未満の者に対しては三・七五か月分、同四か月以上五か月未満の者に対しては三・〇か月分、同三か月以上四か月未満の者に対しては二・二五か月分、同三か月未満の者に対しては一・〇か月分を支給することを求めている点、支給にあたつてスト・欠勤控除、査定を行わないこと及び同年一二月五日までに支給することを要求している点で全く同一であるが、三重労組は右支給が基本給を基準として算定され同年一一月二〇日現在で在籍の者に対して行われるべきことを明示しており、支部は右要求に加えて、夏季一時金における未払分(スト控除分)の支給を要求している。

2  本件共同交渉申入れに対して、原告会社は、同月九日、本件共同交渉申入れが回答促進を目的とするものであるなら原告会社は従来から参加人ら組合に同時回答をしているので共同交渉の必要を認めないこと、各組合は基本的に組織形態が異なつており、加えて年末一時金に関する参加人ら組合の要求事項の間に差異があることを理由にして、本件共同交渉申し入れに応じる意思はなく従来どおり各工場において工場長がそれぞれの組合との交渉に応じる方針である旨、両組合に対して回答した。

なお、右回答に際して、原告会社は、参加人ら組合が爾後の団体交渉を共同交渉で行うことを希望するのならば、両組合間の意思の統一を行つたうえ、要求内容も交渉事項も統一されたものを提出し、爾後の団体交渉のもち方、場所等一貫した方針を原告会社とうちあわせ、双方了解のうえで行うべきものである旨の見解を参加人ら組合に対し表明した。

3  参加人ら組合は、同月一一日、原告会社の右見解に対して、参加人ら組合の統一見解として、

(1)  従来の、個別交渉における単独の組合の交渉のみではその進展に限界があり、結果として解決が遅れていたこと、

(2)  両組合の組織形態の違いは、共同交渉を拒否する理由とはならず、原告会社が両組合の意思統一を求める点は明らかに支配介入であること、

(3)  昭和四九年年末一時金要求の内容、交渉事項には何ら共同交渉の妨げとなるような差異はなく、また、過去においては独自要求を含んだ要求であつても共同交渉を行つた例があるのであつて、原告会社が要求内容の差異を理由として共同交渉を拒否するのは理由がないこと、

(4)  従来から原告会社は労働諸条件について全社的決定を主張してきたものであり、原告が共同交渉を歓迎こそすれこれを拒否するというのは従来の態度と矛盾すること、

(5)  団体交渉のもち方、場所等は従来のように、その都度労使双方で協議、決定すればすむことであること、等の見解を、原告会社に対して表明して、原告会社に対し更に共同交渉に応じることを求めた。

4  その後、同月二一、二二日の両日、原告会社側から、両工場の工場長及び総務関係担当の責任者が出席して、両組合との間で、共同交渉の取扱いについて話し合つたが、物別れに終わり、同月二二日、参加人ら組合は、原告会社に対し、年末一時金要求について同月二六日午後一時から共同交渉を行うべきこと、共同交渉の場所については玉川工場を希望するが会社の都合にまかせる旨の申し入れを行つた。

5  原告会社は、右申し入れに対して、同月二五日、原告会社には参加人ら組合の要求する共同交渉に応じる考えがなく、年末一時金についての回答は、同月二七日午前一〇時、各工場での個別の団体交渉において回答する旨各組合に通知した。

6  なお、この当時、団体交渉の方式については、原告会社と参加人ら組合のいずれとの間にも労働協約、協定その他の合意は締結されていない。

五  その後の事情

前掲(三の冒頭)各証言、いずれも成立につき当事者間に争いのない甲第五号証、乙第三号証の一五ないし一九、同号証の三一、三二、三四、丙第一ないし第三号証、丙第一二号証、丙第一五号証の一、二、丙第一六号証の一、二、丙第一七ないし第一九号証及び弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

1  同年一一月三〇日、参加人ら組合は、三重労組の執行委員長を代表者とし、両組合の三役を中心とする一〇名を構成委員、執行委員を中心とする八名を予備委員とする「旭ダイヤモンド三重工場労組全金旭ダイヤモンド支部年末一時金統一交渉団」(以下「年末一時金統一交渉団」という。)を結成し、同日、原告に対しその旨を通知した。同交渉団は、同日、両組合から年末一時金に関する交渉権限の委任を受けている旨の委任状を添えて、原告会社に対し団体交渉を申し入れたが、原告会社は、交渉申し入れ書を受領した旨の署名さえも拒否し、同年一二月三日、各組合に対し、原告会社は年末一時金統一交渉団からの団体交渉申入れに応じる意思のないこと、各工場における各組合との個別交渉にはいかなる時でも応じる用意のあることを通知した。同年一二月二日、参加人ら組合は、被告委員会に共同交渉促進に関するあつせんを申請したが、原告会社は、これを拒否した。次いで、同月一六日、参加人ら組合は、被告委員会に、年末一時金に関するあつせんを申請し、同月二三日、原告会社及び参加人ら組合は、あつせん案を受諾して、右年末一時金交渉は解決した。

2  昭和五〇年二月四日、春闘統一交渉団、三重労組、支部の三者は連名で、年末一時金統一交渉団が「旭ダイヤモンド三重工場労組全金旭ダイヤモンド支部春闘統一交渉団」(以下「春闘統一交渉団」という。)と改称した旨を原告会社に通知し、同日、支部は一か月後に提出予定の春闘要求について春闘統一交渉団と団体交渉を行うよう原告会社に対して要求したが、原告会社は、本件事件が被告委員会に係属しているからその判断に従いたいとして同月七日支部の右要求を拒絶した。同年五月二七日、参加人ら組合は被告委員会に春闘要求に関するあつせんを申請し、同年七月四日、原告会社及び参加人ら組合があつせん案を受諾して右春闘交渉は解決した。

3  昭和五〇年年末一時金要求、同五一年春闘要求及び同年夏季一時金要求については、原告会社に対し共同交渉の申し入れをしようとして支部は三重労組に対し共同交渉実施についての同意を求めたが、三重労組がこれに同意しなかつたため、いずれも原告会社に対して共同交渉の申し入れをするに至らず、結局、個別交渉による団体交渉が行われた。

4  その後、昭和五二年春闘要求、同年夏季一時金要求、同年年末一時金要求、同五三年春闘要求、同五四年春闘要求については、いずれも、参加人ら組合から原告会社に対し共同交渉を申し入れたものの、原告が右申し入れを拒否したことから、結局、個別交渉による団体交渉が行われている。

5  また、昭和五一年年末一時金要求は、個別交渉によつて団体交渉が行われたものであるが、三重労組が先に原告会社との間で交渉を妥結してしまつたため、原告会社は、支部との団体交渉の席上三重労組に対する回答以上のものは出せない旨発言し、そのために支部と原告会社との交渉は紛糾長期化している。

6  また、昭和五二年春闘要求交渉では、三重労組が原告会社との団体交渉において事実上の合意に達した事項について組合の全体集会にはかつたところ、投票で否決されるという事態が生じたことが認められる。

7  参加人ら組合の組織統一については、支部はこれを強く希望しているが、昭和五三年一〇月現在においてもなお、両組合の間での組織統一に対する考え方の差異は大きく、この点についての見通しは全くたつていない。

六  不当労働行為の成否

1  憲法二八条は勤労者の団体交渉をする権利を保障し、これをうけて労働組合法七条二号は使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒むことを不当労働行為として禁止している。およそ、団体交渉は、労働者の団体がその団結力を背景として、その構成員の労働条件について、労使対等の立場に立つて自主的に交渉することをその本質とするものであり、前記の憲法及び労働組合法の規定による団体交渉権の保障も、このような団体交渉を保障することを目的としたものと解される。

したがつて、前記規定により団体交渉権を保障される労働者の団体は、まずなによりも団結力を保持するものでなければならないのであり、この団結力を保持する団体であるということができるためには、構成員に対し統制力をもちそこに統一的な団体意思が形成されていることが必要であると解される。けだし、内部的な統制力を欠き統一的団体意思が形成されていない団体にあつては、その構成員の意見の相違により使用者との団体交渉を斉一的かつ円滑に進め交渉結果の統一をはかることが困難であり、また、仮にその交渉によつて労働協約その他の合意に達したとしてもその履行の確保の保証がなく交渉の成果が無に帰するおそれが強いものであつて、法がかかる団体との団体交渉まで使用者に強制しているものと解することはできないからである。このような観点から、統制力を欠き統一団体意思の形成されていない単なる労働者の集団は使用者との団体交渉能力をもたず、このような団体からの団体交渉申し入れに対しては使用者がこれを拒否しても正当な理由があるものとして不当労働行為にはならないものと解されるのであるが、このことは、その間に統制力を欠き統一団体意思の形成されていない単なる労働組合の集団からの団体交渉の申し入れについてもまた、同様である。

ところで、団体交渉は前記のような団体交渉能力を有する労働者の団体がその構成員である労働者の労働条件について使用者と交渉を行うものであるから、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合であつても、その交渉の形態(ないし方式)は、各労働組合と使用者との個別交渉の形態によるのが原則である。このような各労働組合の個別交渉の原則のわくをこえて複数の労働組合が共同して使用者に対し団体交渉を求めることは、各労働組合の闘争力、交渉力を強化するとともに複数の労働組合の組合員相互に共通する具体的要求事項を統一的ないし画一的に解決することを目的とし、その点で意義があるものと考えられるのであるが、使用者に対する関係でこのような共同交渉の形態による団体交渉を求めることができるためには、複数の労働組合相互間において統一された意思決定のもとに統一した行動をとることができる団結の条件すなわち統一意思と統制力が確立されていることが必要であると解するのが相当である。けだし、共同交渉の申し入れが行われる場合には、複数の労働組合間に一種の協力関係が生じその限りでその交渉力が強化される一面のあることは否定することができないが、その協力関係にも種々の段階があり、労働組合相互間に前記の条件が確立されていない場合には、交渉の斉一的かつ円滑な進行、交渉結果の統一及び交渉成果確保等の保障がなく、前記の団体交渉能力を有しない単なる労働組合の集団が団体交渉を申し入れる場合となんら異なるところがないものであり、かつ、個別交渉の原則のわくをこえて共同交渉の形態によらせるべき前記目的の主要な部分を達成する基礎を欠くものであつて、使用者に対しこのような形態の団体交渉を法的に強制するいわれはないものといわざるをえないからである。

このようなその間に統一意思と統制力を欠く複数の労働組合からの共同交渉の申し入れは、結局、複数の労働組合が同時に同一場所で使用者との団体交渉を求めることに帰するものというべきであるが、このような団体交渉の時、場所、態様等の手続の問題については労働組合側の一方的な決定による申し入れに使用者が拘束されるいわれがないものであるし、また、かかる複数の労働組合が共同交渉の形態による団体交渉を求めることは、各労働組合の原則的交渉形態である個別交渉に当該労働組合以外の第三者の立会とその発言を許すことを求めることに帰するものであり、このことは当該労働組合と使用者との自主的な交渉の保障という団体交渉権の保障の目的にもとるものであつて、相手方の同意がない限り許されるべきことではないものというべきである。

以上のような点にかんがみると、その間に統一意思と統制力が確立されていない複数の労働組合からの共同交渉の申し入れに対しては、使用者は、原則として、これに応ずべき義務はないものと解するのが相当である。

もつとも、右のように団体交渉に応じる義務がない場合であつても、使用者がこれに応じることはなんら差し支えのないところであり、使用者が労働組合と労働協約又は協定等により共同交渉の形態による団体交渉を行うことを約している場合、共同交渉の形態による団体交渉を行うことが確立した労使慣行となつている場合、その他使用者が共同交渉の申し入れに応ずることが合理的かつ相当であると認められる特段の事情がある場合には、使用者が共同交渉の申し入れを拒否することは許されないものというべきであるが、右のような例外的な場合を除いては、使用者が前記のような複数の労働組合からの共同交渉の申し入れに対しこれに応ずるかどうかはその自由にまかされているものであつて、共同交渉の形態による団体交渉の申し入れであることを理由にこれを拒否しても、正当な理由があるものとして、不当労働行為にはならないものというべきである。

このように解しても、各労働組合はそれぞれ使用者と個別交渉の形態による団体交渉を行うことは保障されているのであり、また、真に交渉力を強化し統一的な交渉の実をあげようとするのであれば、内部的統制力をもち統一的団体意思の形成された連合体を結成し(必ずしも永続的なものに限らず、ある交渉事項の達成を目的とした一時的組織でも足りる。)、この団体から団体交渉を申し入れればよいのであるから、なんら不都合は生じないものというべきである。

2  そこで、以上の見地に立つて、本件共同交渉申し入れを原告会社が拒否したことが不当労働行為を構成するかどうかについて検討する。

(一)  前記認定の事実によれば、参加人ら組合は、いずれも原告会社の従業員をその構成員とし、本件共同交渉申し入れに際してはその間に一種の協力関係が生じているものと認められるが、本件共同交渉申し入れを原告会社が拒否した当時、参加人ら組合の間に前記の共同交渉が許されるべき条件すなわち統一意思と統制力が確立されていたものと認めることはできず、他に右統一意思と統制力の存在を示す事実を認めるに足りる証拠もない。

したがつて、本件共同交渉申し入れについては、原告会社は、特段の事情がない限り、共同交渉の形態による団体交渉の申し入れであることを理由として、これを拒否することができるものといわなければならない。

(二)  そこで、原告会社が本件共同交渉申し入れに応ずることが合理的かつ相当であると認められる特段の事情があつたかどうかについて判断する。

(1) まず、前記認定の事実によれば、本件共同交渉申し入れを原告会社が拒否した当時、原告会社と参加人ら組合のいずれとの間にも共同交渉の形態による団体交渉を行うことを約した労働協約又は協定等が締結されていなかつたことは、明らかである。

(2) そこで、次に、原告会社と参加人ら組合との間において団体交渉を共同交渉の形態で行うことが労使慣行として確立していたかどうかについて検討する。

前記認定事実によれば、昭和三八年から同四六年までの間に原告会社と参加人ら組合との間において九回にわたり共同交渉が行われた実績のあることが認められるが、その間においても個別交渉によつた事例が少なからずあり、その後昭和四七年から同四九年一一月の本件共同交渉の申し入れまでの間には共同交渉が全く行われていなかつたものであつて、このような原告会社と参加人ら組合との間における従来の団体交渉の経過に照らせば、本件共同交渉の申し入れを原告会社が拒否した当時原告会社と参加人ら組合との間において団体交渉を共同交渉の形態で行うという労使慣行が確立していたものということはできない。

参加人両名は、参加人ら組合が合意のうえで共同交渉を申し入れたときには原告会社はこれを応諾する旨の労使慣行が確立していたものである、と主張する。前記認定の事実によれば、原告会社と参加人ら組合との間においては昭和三八年から同四六年まで九回にわたり共同交渉が行われており、この間においては参加人ら組合が合意のうえで原告会社に共同交渉を申し入れたのに対し原告会社がこれを拒否したことは全くなかつたものであり、右期間内のいくつかの年度及び昭和四七年以降において共同交渉が行われなかつたのは、昭和四二年に原告会社から共同交渉を申し入れたのに対し参加人ら組合がこれを拒否した例を除けば、参加人ら組合の間において共同交渉実施の合意が成立せず共同交渉の申し入れをするにいたらなかつたことによるものであつたことが認められる。しかしながら、そもそも、「参加人ら組合の合意ができて共同交渉を申し入れた場合には」というようないわば組合側の一方的な都合に左右されるような申し入れに会社側が拘束されるというような慣行はたやすくこれを認めることができるものではないばかりでなく、前記認定事実によれば、参加人ら組合の合意による共同交渉の申し入れは、昭和四六年までの間においても必ずしも継続して毎年毎期行われていたものではなくその間に行われなかつた年度もあり、また、昭和四七年以降は全く行われていなかつたのであるから、本件共同交渉申し入れに至るまで参加人ら組合の合意による共同交渉の申し入れに対し原告会社がこれに応じるという事実状態が反覆継続していたものということはできないし、更に、団体交渉の形態については当事者の一方の意思のみによつて決定することができるという性質のものではないことに照らせば、参加人ら組合の合意による共同交渉の申し入れが行われた場合においても、原告会社としてはその都度その自由な意思に基づいてこの形態による団体交渉に応ずべきかどうかを決定したうえでこれに応じていたものと解するのが相当であるから、前記のような事実が認められるからといつて、それだけで、本件共同交渉申し入れを原告会社が拒否した当時において、参加人ら組合が合意のうえで共同交渉を申し入れた場合には原告会社がこれに応じなければならないとする規範意識が労使双方に形成され、事実上の制度として確立されていたものとまで、認めることはできない。

したがつて、原告会社と参加人ら組合との間に参加人両名が主張するような労使慣行が確立していたものということはできず、その主張は採用することができない。

(3) そこで、更に、その他原告会社が本件共同交渉申し入れに応ずることが合理的かつ相当であると認められる特段の事情があつたかどうかについて検討する。

前記認定事実によれば、(ア)三重労組は原告会社三重工場の従業員を構成員とするいわゆる企業内組合であるのに対し、支部は、原告会社玉川工場の従業員を構成員とするものであるが全国的な組織である全金の一部を構成する組合であり、上部組織の方針に拘束されるものと解されること、(イ)参加人ら組合は、それぞれ運動方針を異にし、ことに争議行為はそれぞれの組合が独自の判断に基づいてその手段・規模・態様等を決定し実施していること、(ウ)昭和四六年以前においても共同交渉の申し入れに至らなかつた事例が少なからずあるほか、昭和四七年から同四九年夏季一時金要求交渉までの間は両組合の間に一度も合意が成立しなかつたため共同交渉が申し入れられておらず、また、本件紛争後の昭和五〇年年末一時金要求、同五一年春闘要求、同年夏季一時金要求の各交渉においては三重労組が支部の共同交渉実施の申し入れを拒絶していること、(エ)各組合とも、団体交渉担当者に妥結権を委譲しておらず、交渉の席上の合意事項については各組合の全体集会にはかつてその承認を得たうえでなければ妥結を行わないこととしており、かつ、昭和四七年年末一時金要求交渉において旭ダ労組は団体交渉の席上の合意事項について全体集会での承認が得られなかつたこと、がそれぞれ認められる。

これらの事実によれば、本件共同交渉申し入れに際して参加人ら組合の間に一種の協力状態が生じているとしても、その協力意思がはたして強固なものといえるのかどうか、団体交渉の過程で交渉の進め方に喰い違いを生じないかどうか、統一的な交渉成果を得ることができるのかどうか等の疑念が生ずることを否定しえないものがあり、右のような事情のもとにおいては、参加人ら組合には、前記のように共同交渉の形態によるべき一般的な条件である統一意思と統制力を欠き原告会社との間に共同交渉を斉一的かつ円滑に進め交渉結果の統一をはかりその履行を確保する一般的な保障がないものというべきであるばかりでなく、その具体的な保障もまた認めがたいものといわなければならない。加えて、前記認定事実から明らかなように、原告会社三重工場は三重県上野市に、同玉川工場は神奈川県川崎市にあつて相互に遠く隔つており、また、原告会社側の交渉担当者は昭和四七年以降工場長以下各工場の管理職であつて、原告会社が共同交渉に応じた場合には業務遂行上ある程度の支障の生ずることが避け得ないものであると解されることを考慮すれば、被告及び参加人両名の主張する諸般の事情を斟酌しても、その他例外的に原告会社が本件共同交渉申し入れに応ずることが合理的かつ相当であると認められる特段の事情があるものとはとうていいえず、他に右特段の事情を認めるに足る証拠もない。

(三)  以上検討したところによれば、原告会社が本件共同交渉申し入れに応じる義務があるものとはいえないし、また、原告会社が恣意をもつて共同交渉を拒否し個別交渉を固執しているものともいえないから、結局、原告会社が本件共同交渉申し入れを拒否したことは、不当労働行為を構成しないものというべきである。

七  結論

したがつて、原告会社の本件共同交渉申し入れの拒否には正当な理由がなく不当労働行為に該当すると判断して原告に対し参加人両名が共同交渉を申し入れた場合にはこれに応じるべきことを命じた本件救済命令は、その判断を誤つた点において違法であり、取消を免れない。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから、正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 越山安久 星野雅紀 三村量一)

命令書

(都労委昭和四九年(不)第一一九号 昭和五〇年九月一六日命令)

申立人 旭ダイヤモンド三重工場労働組合 外一名

被申立人 旭ダイヤモンド工業株式会社

主文

被申立人旭ダイヤモンド工業株式会社は、申立人旭ダイヤモンド三重工場労働組合と申立人全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部とが同一の要求事項について共同して団体交渉を申入れた場合には、申立人両組合の共同の申入れであることを理由としてこれを拒否してはならない。

理由

第一認定した事実

一 当事者

(1) (ア)申立人旭ダイヤモンド三重工場労働組合(以下「三重労組」という。)は、被申立人会社三重工場の従業員で組織する労働組合であり、組合員数は二七七名である。(イ)申立人総評全国金属労働組合神奈川地方本部旭ダイヤモンド支部(以下「支部」という。)は、昭和三八年被申立人会社玉川工場、八王子分工場の従業員で結成した旭ダイヤモンド労働組合が昭和四九年一月、前記上部組合に加盟したことに伴ない名称変更した労働組合であり、組合員数は二〇三名である。

(2) 被申立人旭ダイヤモンド工業株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を、三重県上野市に三重工場、神奈川県川崎市に玉川工場を置き、全国八か所に営業所を有し、従業員約八〇〇名を雇用し、ダイヤモンド工具の製造販売を業とする株式会社である。

二 昭和四九年年末一時金に関する「統一交渉」の拒否

昭和四九年一一月五日、三重労組と支部(以下「両組合」という。)は、会社に対して同一内容の年末一時金を要求するに当つて、両組合が連帯して三重工場で団体交渉(以下、当事者の呼称にしたがい「統一交渉」という。)を行ないたい旨を申し入れた。これに対して同月九日会社は、従来から両組合に同時期に回答しており、したがつて統一交渉の必要を認めないことなどを挙げてこれを拒否した。その後二一、二二日の両日、両組合と会社とは統一交渉の取扱いについて話し合つたが、物別れに終り、二五日会社は両組合に対して二七日に各組合との個別団交で回答すると通知した。

三 統一交渉団体からの団体交渉申入れの拒否

(1) 一一月三〇日、両組合は、三重労組の執行委員長を代表者とし、両組合の三役を中心とする九名を構成委員、執行委員を中心とする八名を予備委員とする「旭ダイヤモンド三重工場労組全金旭ダイヤモンド支部年末一時金統一交渉団」(以下「年末一時金統一交渉団」という。)を結成し、同交渉団は両組合から同交渉団に年末一時金に関する交渉権限の委任を受けている旨の委任状を添えて団体交渉を申し入れたが、会社は団体交渉申入れ書を受領した旨のサインさえも拒否した。

(2) 一二月二日両組合は当委員会に統一交渉促進に関するあつせんを申請したが、会社はこれを拒否した。ついで一六日両組合は当委員会に年末一時金に関するあつせんを申請し、二三日労使があつせん案を受諾して解決した。

(3) 翌五〇年二月四日、旭ダイヤモンド三重工場労組全金旭ダイヤモンド支部春闘統一交渉団(以下「春闘統一交渉団」という。)、三重労組、支部の三者は連名で、年末一時金統一交渉団を春闘統一交渉団に改称した旨を通知するとともに、支部は一カ月後に提出予定の春闘要求について春闘統一交渉団と団体交渉を行なうよう会社に要求した。しかし同月七日会社は本事件が当委員会に係属しているからその判断に従いたいとして、その申入れを断わつた。その後、五月二七日、両組合は当委員会に春闘要求に関するあつせんを申請し、七月四日労使があつせん案を受諾して解決した。

第二判断

一 当事者の主張

(1) 申立人の主張

会社が統一交渉または年末一時金統一交渉団ないし春闘統一交渉団との交渉を拒否したことは、つぎの理由によつて明白な不当労働行為である。(ア)労働組合がどのようなメンバーおよび形態で団体交渉を行なうかは組合の自由であり、使用者は正当の理由のあるときに限り拒否しうるにすぎない。(イ)組合の団体交渉権の否定はひいて団結権の否認である。(ウ)昭和四六年までは、両組合と会社との間で、しばしば春闘要求ないし一時金について統一交渉を行なつてきたのであつて、会社の態度は従来の慣行の無視である。(エ)会社は問題の解決を遅らせようとする点で不誠実であり、むしろ両組合を分断し、交渉力を弱め、労働条件を抑えようと策謀している。(オ)統一交渉団は「実質的統制力を有する組織体」であり、したがつて前記要求に関して固有の団体交渉権を有し、かつ両組合からの委任も適式に行なわれている。

(2) 被申立人の主張

(A)会社は統一交渉を拒否する正当の理由がある。けだし(ア)会社は両組合の団体交渉権限を認めており、両組合の分断などを意図しているものではない。(イ)およそ組合の団体交渉権は他の組合と統一ないし集団的に交渉することを要求する権限をも含むものではない。(ウ)統一交渉はむしろ交渉を長期化するおそれさえ存する。(エ)四七年以降は統一交渉は全く行なわれておらず、そのような慣行は存在しない。(B)会社は統一交渉団との団体交渉を拒否する正当の理由がある。けだし、(ア)統一交渉団は労働組合法二条、五条の要件を欠いており、使用者は適法な労働組合からの団体交渉申入れでない限り、これを拒否しうる自由をもつている。(イ)また、団体交渉の委任をうけるものは、自然人に限られ統一交渉団は受任者となりえない。(ウ)三重労組と会社との間には、同労組組合員以外の者は団体交渉権を有しない旨の協約が存するから統一交渉団は会社に対して団体交渉を要求することはできない。

二 “統一交渉”の拒否について

両組合が個別に団体交渉権を有することはいうまでもないけれども、団体交渉権を労働組合に保障した趣旨から推して組合の主張するように組合が一般的に自己の選択する形態による団体交渉をつねに使用者に強制しうると解することはできない。しかし、本件においては両組合がともに被申立人会社の雇用する従業員で構成されており、さらに両組合の要求事項が同一であつて、両組合が統一交渉を望んでおり、しかも昭和四六年までには何回かいわゆる統一交渉が行なわれた実績が認められる。そして、会社が統一交渉に応ずる場合にも会社の主張するように交渉がそのために長期化したり、交渉の場所の選定や交渉の場所への出張などに著しい不都合があるとも認めがたい。このような場合には、労働者の代表と使用者との間で労働条件に関する団体交渉を円滑に進める趣旨から、使用者たる会社が両組合の申入れた統一交渉に応ずべきものと解することが相当である。したがつて会社が両組合との統一交渉を拒否したことには正当の理由がない。

三 “統一交渉団”との交渉拒否について

両組合の主張は、会社をして統一交渉を応諾せしめることが主眼であり、それが容れられなかつたので統一交渉団との交渉を要求してきたものであるから、上記判断のとおり両組合の本来の主張が認容される以上、この統一交渉団の交渉要求に対する拒否についてはとくに判断する必要がないと思料する。

第三法律上の根拠

本件は労働組合法第七条第二号に該当する。

よつて、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。

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